【J1第35節】京都サンガF.C. 1-1 鹿島アントラーズ

京都サンガF.C. 1-1 鹿島アントラーズ
日時:2025年10月25日(土)14:03KO
会場:京都府立京都スタジアム “サンガS”(2万353人/晴のち雨 21℃  65%)
主審:木村博之
36′-京都/マルコ・トゥーリオ・オリヴェイラ・レモス (右足←長沢)
90+6′-鹿島/鈴木優磨

■京都サンガF.C.(4-1-2-3)
GK26:太田岳志
DF2:福田心之助
DF5:アピアタウィア久(74′-MF44:佐藤響)
DF24:宮本優太
DF22:須貝英大
MF6:ジョアン・ペドロ・メンデス・サントス
MF32:齊藤未月(64′-MF48:中野瑠馬)
MF39:平戸太貴(74′-MF25:レオナルド・ダ・シウヴァ・ゴメス “レオ・ゴメス”)
FW11:マルコ・トゥーリオ・オリヴェイラ・レモス(86′-MF27:山田楓喜)
FW93:長沢駿(74′-DF3:麻田将吾)
FW14:原大智

■鹿島アントラーズ(4-2-2-2)
GK1:早川友基
DF22:濃野公人
DF55:植田直通
DF3:キム・テヒョン
DF25:小池龍太
MF20:舩橋佑(46′-MF13:知念慶)
MF6:三竿健斗(81′-MF71:荒木遼太郎)
MF77:アレクサンダル・チャヴリッチ(81′-FW34:徳田誉)
MF18:ジョゼ・エウベル・ピメンテウ・ダ・シウヴァ(72′-MF27:松村優太)
FW40:鈴木優磨
FW9:レオナルド・ヂ・ソウザ・ペレイラ “レオ・セアラ”(72′-FW11:田川亨介)

かくも残酷なイニシエーション

紫の戦士たちは、まるで時間が止まったかのようにピッチに崩れ落ちた。
天を仰いだまま動けない選手もいた。
3位・京都サンガが、首位・鹿島アントラーズをホームに迎えた大一番。
勝利すれば、逆転優勝への道が開けるはずの一戦だった。

そのとき━━時計の針は、後半アディショナルタイム6分を指していた。
1-0、京都リード。
勝利まで残り数十秒。
されど〝フットボールの神〟は時として残酷な結末を用意する。
「ニアとファーの間に落とせば何か起こると思っていた」
鹿島MF松村優太がサイドからクロスを上げる。
そのボールは京都のゴール前ファーサイド、最も危険な空間へと吸い込まれていった。

「セカンドボールへの準備をして一瞬、見てしまった」
福田心之助の視線が、わずかにボールの先の味方へと動いた。
その刹那の迷い。
鹿島のエース・鈴木優磨が見逃すはずがなかった。
「(相手DFが)迷ってしまっていた。クロスに合わせるのは自分の強みでもあるので、ひさしぶりにそれが出せたかな」
福田の背後から回り込んで、体をねじ込むようにして右足で合わせる。
ボールは無情にもゴールネットを揺らした。

「僕がもう少し体を寄せていれば防げた」
と福田が首を垂れれば、Gk太田岳志は
「クロスが曲がって落ちる場面で出られたかなと思う。もっと早く飛び出しの判断をすれば失点はしなかった」
と悔やんだ。
一瞬の判断遅れが重なったこともあっての失点。
そして、再開直後に試合終了のホイッスルが鳴る。
掴みかけていた勝ち点「3」は、手から滑り落ちて「1」に変わっていた。

悲劇を悲劇のままにしない

試合後、曺貴裁監督は言葉を選びながら振り返った。
「僕はその場にはいませんでしたが、日本代表の〝ドーハの悲劇〟のような……。ある意味で〝亀岡の悲劇〟のようなシチュエーション。今、言えるのはこれを悲劇のままにしてはいけないということです」

また、悲劇的結末に至る背景として挙げたのが「経験の差」だった。
「(鹿島は)9年近くタイトルから遠ざかっていると聞いているが、伝統の力があり、見えないところで押し込まれていた」
「(リーグ戦の)タイトル争いというプレッシャーがかかる試合は、クラブとして経験がない。ただ、これは必ず次につながる。経験不足は、経験しないと不足分は補えない。そういう意味で必要な経験だったんじゃないか」

そして、最後はすべての責任を自ら背負い込んだ。
「監督の力量不足を感じます。最後のワンプレーは、生きている間ずっと僕の脳裏を離れないと思う」

可能性があるかぎり……

試合後、京都のロッカールームは重い沈黙に支配されていたという。
ショックでうなだれる選手たち。
指揮官が「話したいヤツいるか?」と問いかけると、MF中野瑠馬がか細い声で「申し訳ないです」と口にする。
失点の直前、敵陣深くに進出しながら、ボールキープではなくパスを出す選択をしたことに対する謝罪だった。

チームが寂寥感に包み込まれる中、ひとりの言葉が響いた。
「まだ3試合ある。諦めるのは違う」
声の主は、齊藤未月。
2年前の大怪我を経て、この大一番で移籍後初先発となった不屈のMFだ。
「サポーターはあんなに声援をくれている。鹿島相手にこれだけやれたんだから、残り3試合も諦めずにやろうよ」

齊藤はミーティング後に、こう語っている。
「ポジティブに捉えれば、ここを勝ってしまったらチームが完全燃焼してしまって、残り試合にパワーを注げない可能性もあったと思います」
「でも全然チャンスはある。この展開は僕たちにとってプラスだと思いますし、ここから逆転するのがいちばんおもしろい」

齊藤の熱は伝播した。
負傷でベンチ外だったFWラファエル・エリアスも「みんなもう一度顔を上げよう。俺も諦めない」とチームに喝を入れた。
下を向いていた選手たちが、顔を上げた。
指揮官もまた、選手たちに語りかけた。
「事実としてわれわれに(優勝の)チャンスが残されていないわけではない。次のF・マリノス戦で勝ち点3を取って、可能性を探り続ける。それしかできない」
「順位は最終戦が終わって決まるもの。ここからは、奇跡を起こせるようなパフォーマンスが出せるかどうかにかかっている」

前半36分、見事な先制点を決めたFWマルコ・トゥーリオは、唇を噛んだ。
「ゲームについてひとことで言うなら『本当に残念』。でも、まだ希望を捨ててませんし、最後までタイトル争いに参加していきたい」
ベテランの太田も、視線をすでに次へと向けていた。
「ワンプレーに対する重みを、優勝争いするチームは見逃さないとあらためて感じた。3連勝を目指して切り替えていく。残りのサッカー人生かけるつもりでやる」

「亀岡の悲劇」——。
だが、指揮官が言及したように、それを悲劇のまま終わらせるかどうかは、自分たち自身にかかっている。
この日の悔しいドローは、京都サンガF.C.がいずれ〝真の強者〟へと脱皮するために必要な通過儀礼なのかもしれない。
残り3試合。
未来を信じる戦いが始まる。

参照
* 明治安田J1 第35節 2025年10月25日 鹿島アントラーズ戦 マッチレポート | 京都サンガF.C.|オフィシャルサイト
* 【京都】曺監督「亀岡の悲劇」痛恨ドローでV遠のくも「経験不足は経験しないと」残り3戦全集中 – J1 : 日刊スポーツ
* 【記事全文】悲劇の幕切れ…京都のロッカルームに響いたMF斉藤未月の言葉“まだまだこっから” – スポニチ Sponichi Annex サッカー
* 京都、鹿島にラストプレーで同点許す 曺貴裁監督「最後のワンプレーは、生きている間ずっと僕の脳裏を離れない」亀岡の悲劇 – スポーツ報知
* 京都、鹿島にラストプレーで同点許す 曺貴裁監督「最後のワンプレーは、生きている間ずっと僕の脳裏を離れない」亀岡の悲劇 – スポーツ報知

【J1第34節】湘南ベルマーレ 1-1 京都サンガF.C.

湘南ベルマーレ 1-1 京都サンガF.C.
日時:2025年10月19日(日)15:03KO
会場:神奈川県平塚市平塚競技場”レモンS”(1万1,688人/曇 22.1℃ 61%)
主審:今村義朗
29′-湘南/鈴木章斗
※36′-京都/原大智PK失敗
90+10′-京都/須貝英大(ヘッド←山田)

■湘南ベルマーレ(3-4-2-1)
GK31:真田幸太
DF66:松本大弥
DF4:舘幸希
DF8:大野和成
MF37:鈴木雄斗
MF15:奥野耕平
MF25:奥埜博亮(90+4′-MF13:平岡大陽)
MF47:中野伸哉
FW7:小野瀬康介(71′-MF18:池田昌生)
FW9:小田裕太郎(82′-FW72:二田理央)
FW10:鈴木章斗(82′-FW29:渡邊啓吾)

■京都サンガF.C.(4-1-2-3)
GK26:太田岳志
DF2:福田心之助(75′-MF27:山田楓喜)
DF24:宮本優太
DF50:鈴木義宜(※45+1′-一発退場)
DF22:須貝英大
MF16:武田将平(46′-MF44:佐藤響)
MF6:ジョアン・ペドロ・メンデス・サントス
MF39:平戸太貴(64′-FW93:長沢駿)
FW11:マルコ・トゥーリオ・オリヴェイラ・レモス(64′-MF29:奥川雅也)
FW14:原大智
FW18:松田天馬(46′-MF48:中野瑠馬)

【J1第33節】京都サンガF.C. 1-1 川崎フロンターレ

京都サンガF.C. 1-1 川崎フロンターレ
日時:2025年10月4日(土)19:03KO
会場:京都府立京都スタジアム “サンガS”(1万9,265人/曇 22.4℃ 86%)
主審:上村篤史
8′-川崎/伊藤達哉
38′-京都/須貝英大(右足←松田)

■京都サンガF.C.(4-1-2-3)
GK26:太田岳志
DF2:福田心之助
DF24:宮本優太
DF50:鈴木義宜
DF22:須貝英大
MF10:福岡慎平(11′-MF16:武田将平)
MF48:中野瑠馬(65′-MF25:レオナルド・ダ・シウヴァ・ゴメス “レオ・ゴメス”)
MF39:平戸太貴(85′-MF88:グスタヴォ・ボナット・バヘット)
MF29:奥川雅也(46′-MF27:山田楓喜)
FW14:原大智
MF18:松田天馬(65′-FW93:長沢駿)

■川崎フロンターレ(4-2-3-1)
GK1:チョン・ソンリョン
DF31:ファンウェルメスケルケン際
DF22:フィリップ・ウレモヴィッチ
DF5:佐々木旭
DF13:三浦颯太
MF19:河原創
MF8:橘田健人
MF17:伊藤達哉(85′-FW24:宮城天)
MF14:脇坂泰斗
MF23:マルシオ・アウグスト・ダ・シウヴァ・バルボーサ “マルシーニョ”(74′-MF41:家長昭博)
FW9:エリソン・ダニーロ・ヂ・ソウザ(74′-FW91:ラザル・ロマニッチ (88′-警告×2=退場))

痛み分けの価値はどれくらい

他会場の結果によって暫定2位に浮上しても、ベンチに笑顔はなかった。
曺貴裁監督は言う、「今日は勝点2を落としてしまったとみんなが捉えるべき」。
福田心之助は唇を噛む、「この時期の勝点1は、極端に言えば0に等しい」。
昨シーズンと比べれば2位なんて望外の結果とも思えるが、選手・スタッフともまったくあきらめていない。
ゆえに、悔しさが募る結果となった。

スペースを失い、停滞したダイナミズム

勝ち点3が取れなかったのは、ひとえに川崎の「京都対策」が周到だったからだろう。
具体的には、第一に「スペースの封鎖」。

京都の推進力は、走るサイドバックがつくる。
福田、須貝が高い位置を取り、幅と厚みを足していく——その十八番(おはこ)が、この日は出せなかった
川崎はボールを失えば一気に戻る。
サイドハーフのマルシーニョ、伊藤達哉までが最終ラインに吸い込まれるように下がり、5バック、6バックで外側のルートを閉じた。
京都はボールを保持しても外側からの追い越しがなく、川崎の守備ブロックを揺さぶるための有効な手段をひとつ封じられてしまったのだ。

また、オフ・ザ・ボールで選手が絶えず裏のスペースを狙う「縦に速いサッカー」も抑え込まれた。
前述の通りサイドのスペースを消され、中央も固められたことで、京都はボールの出口を見つけられずにいた。
福田いわく、「僕らの見ているところがいつもより単調だった。ボールを持てる時間が多くなった分、探す時間が多くて単調になってしまった」。
縦のルートが塞がれ、ブロック手前のパス交換が繰り返され、ときに無理な縦パスでボールを失う。
川崎が意図的にボールを持たせたことによって、京都はむしろリズムを崩したのだ。
前半11分、福岡の負傷で急遽投入された武田将平も言う。「ちょっと慌てるというか、攻め急ぐ、仕掛けが早過ぎる感じがあった」。

テクニックの前に空転したハイプレス

攻撃が停滞するならば、守備からリズムを作りたいのが京都のスタイル。
ボールを失った瞬間に即時奪回を狙うハイプレスは、チームの生命線である。

しかしこの日、川崎の技術の前にハイプレスが空転させられた。
特に中盤の橘田健人、脇坂泰斗は、京都の激しいプレッシャーを受けても慌てることなくボールをキープ。
巧みなターンや短いパス交換でプレスをいなし、いとも簡単に前を向いて攻撃の起点をつくった。
これにより、京都は「高い位置でボールを奪ってのショートカウンター」をまったく発動できなかった。

川崎の長谷部茂利監督が「試合の入りそのもの、プレーのほとんどがよかった」と振り返ったように、アウェイチームは京都の土俵で真っ向から渡り合った。
京都のプレッシングは、組織的な連携よりも勢いが優先されるきらいがある。
その隙を川崎の選手たちは的確に見抜き、個々のクオリティで上回ることで、京都の武器を無力化してみせたのだ。

遠かった「あと1点」

そんな苦しい流れの中、前半38分に京都らしい形から同点に追いつく。
平戸太貴の浮き球パスに奥川雅也が抜け出して裏を取り、中央へ折り返す。
ボールは松田天馬を経由し、最後に走り込んできたのはSBの須貝英大だった。
試合を振り出しに戻した須貝は、「サイドバックがあのような場面でゴール前に顔を出すところは自分の良さでもあるので、それをやり続けた結果」と胸を張った。

この一撃はあったものの、前半全体の出来は決してよくなかった。
曺監督はハーフタイムに「サイドからしっかりポケットを取るような動きの中でボールを入れていかないとわれわれのよさも出ない」と、攻撃の狙いをあらためて選手たちに徹底。
後半はボールの動かし方もやや改善され、チャンスの数は増えたが、相手に退場者が出て数的優位に立った後も、最後まで勝ち越しゴールは奪えなかった。
勝利に必要な「あと1点」が遠かった。

「よい内容だからよかったなと思う試合じゃない。どうして勝ち切れなかったのか、みんなで反省しなきゃいけない」と武田。
川崎が見せたように、シーズン最終盤、相手は徹底的に京都の長所を消しにかかってくるだろう。
相手の対策を上回り、自分たちのサッカーを貫き通せるか。
まだ見たことない景色へ……。
真価が問われる残り5試合となる。

【J1第32節】セレッソ大阪 1-2 京都サンガF.C.

セレッソ大阪 1-2 京都サンガF.C.
日時:2025年9月28日(日)18:33KO
会場:大阪府大阪市長居球技場(2万1,935人/雨のち曇 26.4℃ 69%)
主審:椎野大地
44′-京都/松田天馬(右足←CK:平戸)
57′-C大/ディオン・クールズ
87′-京都/長沢駿(ヘッド←CK:山田)

■セレッソ大阪(4-2-1-3)
GK1:福井光輝
DF27:ディオン・クールズ
DF31:井上黎生人
DF44:畠中槙之輔
DF66:大畑歩夢
MF8:香川真司(82′-MF35:吉野恭平)
MF10:田中駿汰
MF48:柴山昌也(82′-FW13:中島元彦)
FW77:ルーカス・フェルナンデス(25′-MF19:本間至恩)
FW9:ハファエル・ホジェリオ・ダ・シウヴァ “ラファエル・ハットン”(88′-FW55:ヴィトール・フレザリン・ブエノ)
FW11:チアゴ・エドゥアルド・ヂ・アンドラーヂ(88′-DF22:髙橋仁胡)

■京都サンガF.C.(4-1-2-3)
GK26:太田岳志
DF2:福田心之助
DF24:宮本優太
DF50:鈴木義宜
DF22:須貝英大(59′-MF44:佐藤響)
MF10:福岡慎平(75′-FW93:長沢駿)
MF6:ジョアン・ペドロ・メンデス・サントス(59′-MF48:中野瑠馬)
MF39:平戸太貴(75′-MF25:レオナルド・ダ・シウヴァ・ゴメス “レオ・ゴメス”)
MF18:松田天馬
FW9:ハファエウ・エリアス・ダ・シウヴァ “パパガイオ”(25′-MF27:山田楓喜)
FW14:原大智

That’s The Way (We Like It)

試合開始からわずか25分。
背番号9がピッチ外へ運ばれる光景を前に、京都陣営には重い空気がのしかかった。

とはいえ、絶体絶命の状況も、京都サンガF.C.というチームの真価を証明する舞台に過ぎなかった。
ピッチ上の誰もは下を向かず、むしろ「自分たちがやるしかない」と覚悟を決めたかのように顔を上げる。
先制点、そして終盤の劇的な決勝ゴール。
曺貴裁監督が「全員で勝った勝利」というように、チームの総合力でつかみ取った本当に価値ある勝ち点3だった。
そして、その一体感こそ、サポーターにとって何より胸を打つものかもしれない。
すばらしいゲームだった。

思いの強さ、揺るがずに

前半終了直前の44分、得たコーナーキック。
平戸太貴が蹴った低い弾道は、ニアで待つ須貝英大の足元へ。
彼が背後へ流すと、走り込んだのは松田天馬。
計算された動きから放たれたシュートが、ゴールネットを鮮やかに揺らす。
偶然ではない。用意された必然のゴールだ。
試合後、松田は確信をもって語った。
「みんなの協力なしでは絶対に決められなかった。コーチングスタッフも含めて『これぞ京都サンガ!』というゴールだったと思います」
先制弾は、逆境の中で己のアイデンティティを取り戻したチームの、力強い〝咆哮〟でもあった。

しかし、後半57分、京都はセットプレーから同点弾を浴びる。
試合は振り出しとなり、スタジアムの空気は明確にホームのセレッソへ傾いた。
今季、過去2回の対戦で味わった逆転負けの記憶が、悪夢のように蘇る。
曺監督はこの時間帯をこう述懐している。
「あそこで『優勝』という文字を忘れていたら、おそらくやられていたと思います。選手たちは僕が思っている以上に『優勝したい』と思ってピッチに立って戦っていることがきょうハッキリ分かった」

監督が信じた選手たちの思いは、プレーとして立ち上がる。
誰もがもう一歩足を出し、体を張る。
「ピンチの場面でもディフェンスが体を投げ出すプレーが多かったと思いますし、それがサンガらしさ」(曺監督)。
「みんなが体を張って耐えられることが、いまの京都の強さ」(松田天馬)。
再三、身を挺して突破を阻んだ宮本優太も「押し込まれる時間も長かったですけど、うまくみんなでコミュニケーションを取りながら守れた」と振り返った。
劣勢でも前へ出る姿勢は、シーズンを通して積み上げてきたものだ。

試合を決めたベテランの一撃

試合は終盤、1-1のまま、やや膠着状態に入る。
引き分けが現実味を帯び始めた後半42分、サンガはCKを得る。
ここで、途中投入のベテラン——背番号93、長沢駿が結果を残した。
山田楓喜がニアへ送ったボールに、フリーで飛び込む。
完璧なタイミングで捉えたヘディングは、GKの手を弾いてゴールに突き刺さった。
劇的な決勝弾。
ベンチから選手が飛び出し、ゴール裏のサポーターは抱き合い、歓喜が弾ける。
殊勲の37歳は、ヒーローインタビューで多くを語らない。
だが、その一言一言に人柄とチームへの想いが凝縮されていた。
「決められて良かったです。でも、僕のゴールというよりかは、みんなのゴールだと思います。みんながつないでくれてCKを獲得して、よいボールを上げてくれてのゴールだったので。みんなに感謝しています」

タイムアップの笛が鳴り、選手たちはピッチで歓喜した。
単なる勝ち点3ではない。
エース不在という最大の危機を、チーム一体で乗り越えたという揺るぎない事実。
チームがまた一段、強くなった瞬間だった。
試合後、曺監督は万感を込め、この勝利を総括する。
「交代で出た選手も含めて全員で勝った勝利ということで、監督として非常にうれしい。私も選手もクラブも全員で頂点を目指すということは、きょうの試合で証明できたと思います」

長沢は言った。
「(優勝と言われることを)よいプレッシャーだと捉えて、きょうみたいに戦っていければ食らいついていけるはずです」
残り6試合。これから立ち向かう重圧は計り知れない。
しかし、この日のピッチに刻まれた〝不屈〟の90分間は、紫の戦士たちがさらなる困難をも乗り越えていけると期待させるに十分だった。

【J1第31節】京都サンガF.C. 1-1 FC町田ゼルビア

京都サンガF.C. 1-1 FC町田ゼルビア
日時:2025年9月23日(火)19:03KO
会場:京都府立京都スタジアム “サンガS”(1万8,964人/曇 24.8℃ 64%)
主審:飯田淳平
16′-町田/岡村大八
※74′-ハファエウ・エリアスPK失敗
90+3′-京都/原大智(pen.)

■京都サンガF.C.(4-1-2-3)
GK26:太田岳志
DF2:福田心之助
DF24:宮本優太
DF50:鈴木義宜
DF22:須貝英大(85′-MF44:佐藤響)
MF16:武田将平(85′-FW93:長沢駿)
MF6:ジョアン・ペドロ・メンデス・サントス(67′-MF39:平戸太貴)
MF48:中野瑠馬(85′-MF25:レオナルド・ダ・シウヴァ・ゴメス “レオ・ゴメス”)
FW29:奥川雅也(56′-MF27:山田楓喜)
FW9:ハファエウ・エリアス・ダ・シウヴァ “パパガイオ”
FW14:原大智

■FC町田ゼルビア(3-4-2-1)
GK1:谷晃生
DF5:イブラヒム・ドレシェヴィッチ
DF50:岡村大八(62′-MF18:下田北斗)
DF3:昌子源
MF6:望月ヘンリー海輝
MF16:前寛之(89′-MF23:白崎凌兵)
MF19:中山雄太
MF26:林幸多郎
FW20:西村拓真(75′-FW10:ナ・サンホ)
FW7:相馬勇紀(75′-FW22:沼田駿也)
FW9:藤尾翔太 (75′-FW15:ミッチェル・デューク)

絶望と歓喜のカタルシス

首位返り咲きを狙うには、勝ちたかったホームゲームだった。
結果は勝ち点1。
とはいえ、決して悲観する内容ではなかった。

ターンオーバーと若き才能の躍動

清水戦の敗戦から中2日。
曺貴裁監督は動いた。
先発6人を入れ替え、特に中盤3人は前節から総入れ替えの布陣を敷く。
その意図として指揮官は「最近、試合の入りで、ボールを取られても後ろの選手が対応してくれるだろうという雰囲気が気になっていた」ことを挙げた。

アグレッシブさへの渇望。
それは、ピッチで躍動する若き才能によって確かな熱を帯びていく。
J1初先発となる大卒ルーキー・中野瑠馬は、指揮官が「1人名前を挙げるならば」と自ら切り出して、「前への推進力と運動量が落ちず、非常に頼もしかった」と絶賛するほどの輝きを放った。
身長169cmの小さな身体でピッチを縦横無尽に駆け回り、セットプレーのキッカーも任される。
前半27分には強烈なミドルシュートで相手ゴールを脅かした。
本人は「チャンスが来ると思って、準備していた」と静かに語ったが、間違いなくきょうの試合で京都を牽引したひとりだった。

エースの責任感

試合の主導権を握りながらも、前半16分、町田得意のロングスローからの一瞬の隙を突かれ、先制を許す。
ビハインドを背負ったまま迎えた後半、京都はさらに攻勢を強めた。
そして74分、ついに決定機が訪れる。
左サイドバックの須貝英大がエリア内で倒され、PKを獲得したのだ。

キッカーは、絶対的エース・エリアス。
誰もが同点を確信した瞬間、キックはGK谷晃生のファインセーブに阻まれてしまった。
膝から崩れ落ちる背番号9。
スタジアムに響き渡る悲鳴とため息。
試合終了後、エリアスは「自分がすべての責任を取りたい」と、誠意と責任感に満ちあふれたコメントを発している。

託された想いと〝強心臓〟

時間は無情にも過ぎていく。
連敗の2文字が、サポーターたちの脳裏を支配しかけていた。
だが、曺監督が「こんなに仲のよいチームは見たことがない」と評する絆が、土壇場で奇跡を呼び起こす。

後半アディショナルタイム、途中出場の佐藤響が再びエリア内で倒され、きょう2度目のPKを獲得。
ボールのもとに選手たちが集まる。
福田心之助はエリアスにもう一度蹴ってほしいと願っていた。
だが、エリアスは個人の「名誉回復」よりも、チームの勝利を選んだ。
「いや、きょうは俺じゃない、(原大智に)任せたい」。
彼は原大智の肩を叩き、ボールを託した。

「自分としても蹴りたかったし、(一度PKを止められている)プレッシャーは特になかったです」と、試合後飄々と語った原大智。
「ハファの思いも込めて蹴りました」という右足から放たれたボールは、GKの逆を突き、ゴールネットに突き刺さった。
歓喜の爆発。
それは、単なる同点ゴールではなかった。
チーム全員で掴み取った魂の一撃だった。

さらに、試合は終わらない。
ラストプレー、ゴール正面で得たFK。
キッカーの山田楓喜は「決められる自信があったので、俺が蹴るしかないと思った」と振り返る。
左足から放たれた完璧な軌道のシュートは、しかし無情にもクロスバーを直撃。
劇的な逆転勝利は、ほんの数センチの差でこぼれ落ちた。

勝ち点1の意味

試合後、山田は「勝点2を落としたって感じが強い」と悔しさを滲ませた。
だが、敵将の言葉が、この引き分けの価値を物語っていた。
「本当に悔しい。ただ、京都さんも素晴らしいチームで、我々が勝点3を取るに値するようなゲーム内容だったのかと言われれば、やはり1-1が妥当だったのかなという思いもあります」(黒田剛監督)。
最後まで攻め続けた京都の執念が、相手にそう認めさせたのだ。

京都の曺貴裁監督の見方も、選手たちの悔しさとは少し違った。
「想像以上によく走ってくれた。自分たちらしい試合」。
中2日の相手を走行距離で圧倒し、最後まで攻め続けた姿勢。
そこに、敗戦を引きずらない選手たちの、確かな成長を見ていた。
「間違いなく上に行くための素地はできてきている」。

絶望的なPK失敗から、チームの絆で掴んだ劇的な同点劇。
そして、最後の最後に訪れた逆転の好機。
喜び、安堵、そして強烈な悔しさ。
そのすべてを味わい尽くしたドローゲームは、アウェイの町田戦同様ドラマチックな内容だった。
残り7試合。
初の栄冠に向けた紫の戦士たちの物語は、この夜またひとつ、忘れられないチャプターを刻んだ。
試合後サポーターからチームに送られた大声援が、その証左だった。