【J1第35節】京都サンガF.C. 1-1 鹿島アントラーズ

京都サンガF.C. 1-1 鹿島アントラーズ
日時:2025年10月25日(土)14:03KO
会場:京都府立京都スタジアム “サンガS”(2万353人/晴のち雨 21℃  65%)
主審:木村博之
36′-京都/マルコ・トゥーリオ・オリヴェイラ・レモス (右足←長沢)
90+6′-鹿島/鈴木優磨

■京都サンガF.C.(4-1-2-3)
GK26:太田岳志
DF2:福田心之助
DF5:アピアタウィア久(74′-MF44:佐藤響)
DF24:宮本優太
DF22:須貝英大
MF6:ジョアン・ペドロ・メンデス・サントス
MF32:齊藤未月(64′-MF48:中野瑠馬)
MF39:平戸太貴(74′-MF25:レオナルド・ダ・シウヴァ・ゴメス “レオ・ゴメス”)
FW11:マルコ・トゥーリオ・オリヴェイラ・レモス(86′-MF27:山田楓喜)
FW93:長沢駿(74′-DF3:麻田将吾)
FW14:原大智

■鹿島アントラーズ(4-2-2-2)
GK1:早川友基
DF22:濃野公人
DF55:植田直通
DF3:キム・テヒョン
DF25:小池龍太
MF20:舩橋佑(46′-MF13:知念慶)
MF6:三竿健斗(81′-MF71:荒木遼太郎)
MF77:アレクサンダル・チャヴリッチ(81′-FW34:徳田誉)
MF18:ジョゼ・エウベル・ピメンテウ・ダ・シウヴァ(72′-MF27:松村優太)
FW40:鈴木優磨
FW9:レオナルド・ヂ・ソウザ・ペレイラ “レオ・セアラ”(72′-FW11:田川亨介)

かくも残酷なイニシエーション

紫の戦士たちは、まるで時間が止まったかのようにピッチに崩れ落ちた。
天を仰いだまま動けない選手もいた。
3位・京都サンガが、首位・鹿島アントラーズをホームに迎えた大一番。
勝利すれば、逆転優勝への道が開けるはずの一戦だった。

そのとき━━時計の針は、後半アディショナルタイム6分を指していた。
1-0、京都リード。
勝利まで残り数十秒。
されど〝フットボールの神〟は時として残酷な結末を用意する。
「ニアとファーの間に落とせば何か起こると思っていた」
鹿島MF松村優太がサイドからクロスを上げる。
そのボールは京都のゴール前ファーサイド、最も危険な空間へと吸い込まれていった。

「セカンドボールへの準備をして一瞬、見てしまった」
福田心之助の視線が、わずかにボールの先の味方へと動いた。
その刹那の迷い。
鹿島のエース・鈴木優磨が見逃すはずがなかった。
「(相手DFが)迷ってしまっていた。クロスに合わせるのは自分の強みでもあるので、ひさしぶりにそれが出せたかな」
福田の背後から回り込んで、体をねじ込むようにして右足で合わせる。
ボールは無情にもゴールネットを揺らした。

「僕がもう少し体を寄せていれば防げた」
と福田が首を垂れれば、Gk太田岳志は
「クロスが曲がって落ちる場面で出られたかなと思う。もっと早く飛び出しの判断をすれば失点はしなかった」
と悔やんだ。
一瞬の判断遅れが重なったこともあっての失点。
そして、再開直後に試合終了のホイッスルが鳴る。
掴みかけていた勝ち点「3」は、手から滑り落ちて「1」に変わっていた。

悲劇を悲劇のままにしない

試合後、曺貴裁監督は言葉を選びながら振り返った。
「僕はその場にはいませんでしたが、日本代表の〝ドーハの悲劇〟のような……。ある意味で〝亀岡の悲劇〟のようなシチュエーション。今、言えるのはこれを悲劇のままにしてはいけないということです」

また、悲劇的結末に至る背景として挙げたのが「経験の差」だった。
「(鹿島は)9年近くタイトルから遠ざかっていると聞いているが、伝統の力があり、見えないところで押し込まれていた」
「(リーグ戦の)タイトル争いというプレッシャーがかかる試合は、クラブとして経験がない。ただ、これは必ず次つながる。経験不足は経験しないと不足分は補えない。そういう意味で、必要な経験だったんじゃないか」

そして、最後はすべての責任を自ら背負い込んだ。
「監督の力量不足を感じます。最後のワンプレーは、生きている間ずっと僕の脳裏を離れないと思う」

可能性があるかぎり……

試合後、京都のロッカールームは重い沈黙に支配されていたという。
ショックでうなだれる選手たち。
指揮官が「話したいヤツいるか?」と問いかけると、MF中野瑠馬がか細い声で「申し訳ないです」と口にする。
失点の直前、敵陣深くに進出しながら、ボールキープではなくパスを出す選択をしたことに対する謝罪だった。

チームが寂寥感に包み込まれる中、ひとりの言葉が響いた。
「まだ3試合ある。諦めるのは違う」
声の主は、齊藤未月。
2年前の大怪我を経て、この大一番で移籍後初先発となった不屈のMFだ。
「サポーターはあんなに声援をくれている。鹿島相手にこれだけやれたんだから、残り3試合も諦めずにやろうよ」

齊藤はミーティング後に、こう語っている。
「ポジティブに捉えれば、ここを勝ってしまったらチームが完全燃焼してしまって、残り試合にパワーを注げない可能性もあったと思います」
「でも全然チャンスはある。この展開は僕たちにとってプラスだと思いますし、ここから逆転するのがいちばんおもしろい」

齊藤の熱は伝播した。
負傷でベンチ外だったFWラファエル・エリアスも「俺も諦めない」と口にする。
下を向いていた選手たちが、顔を上げた。
指揮官もまた、選手たちに語りかけた。
「事実としてわれわれに(優勝の)チャンスが残されていないわけではない。次のF・マリノス戦で勝ち点3を取って、可能性を探り続ける。それしかできない」
「順位は最終戦が終わって決まるもの。ここからは、奇跡を起こせるようなパフォーマンスが出せるかどうかにかかっている」

前半36分、見事な先制点を決めたFWマルコ・トゥーリオは、唇を噛んだ。
「ゲームについてひとことで言うなら『本当に残念』。でも、まだ希望を捨ててませんし、最後までタイトル争いに参加していきたい」
ベテランの太田も、視線をすでに次へと向けていた。
「ワンプレーに対する重みを、優勝争いするチームは見逃さないとあらためて感じた。3連勝を目指して切り替えていく。残りのサッカー人生かけるつもりでやる」

「亀岡の悲劇」——。
だが、指揮官が言及したように、それを悲劇のまま終わらせるかどうかは、自分たち自身にかかっている。
この日の悔しいドローは、京都サンガF.C.がいずれ〝真の強者〟へと脱皮するために必要な通過儀礼なのかもしれない。
残り3試合。
未来を信じる戦いが始まる。

※参考
* 明治安田J1 第35節 2025年10月25日 鹿島アントラーズ戦 マッチレポート | 京都サンガF.C.|オフィシャルサイト
* 【京都】曺監督「亀岡の悲劇」痛恨ドローでV遠のくも「経験不足は経験しないと」残り3戦全集中 – J1 : 日刊スポーツ
* 【記事全文】悲劇の幕切れ…京都のロッカルームに響いたMF斉藤未月の言葉“まだまだこっから” – スポニチ Sponichi Annex サッカー
* 京都、鹿島にラストプレーで同点許す 曺貴裁監督「最後のワンプレーは、生きている間ずっと僕の脳裏を離れない」亀岡の悲劇 – スポーツ報知
* 京都、鹿島にラストプレーで同点許す 曺貴裁監督「最後のワンプレーは、生きている間ずっと僕の脳裏を離れない」亀岡の悲劇 – スポーツ報知

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