カレル・ブリュックナーの「タイポロジー」

久しぶりに風呂掃除。水アカをゴシゴシ強くこすると落ちることがわかった。ゴシゴシゴシゴシを1時間以上。

それはさておき、鮮烈だった昨日のユーロ・チェコ×オランダ戦。「Number」ユーロ開幕特集のカレル・ブリュックナー/チェコ監督のインタビューをもとに、チェコサッカーの特徴・強さの秘密を考えてみたい。

で、記事を書いた木村元彦氏によれば、ブリュックナー監督のキーワードは「タイポロジー」だとか。

★2列目のポポルスキーのところにシオンコ、左のスミチェルのところにはティーチェ、グリゲラの右サイドバックにはイラネク。シオンコはFW、ティーチェはDF登録だが、意に介さない。タイポロジー=同じ種類の対象物を丹念に調査採集して類型化し本質に迫る学問。この方法論をブリュックナーは好んで使い、また自らよく語る。(中略)
 ポジションに選手を合わせるのではなく選手のスタイルに合ったポジションに配置する。さらに徹底して観察し、同じタイプの選手をそのシステムに当てはめて準備させる。特性を完全に把握していれば、ピースが欠損しようがシステムが変わろうが、迅速にフィットし対応できる。そのための選手の腑分け、分類、それがブリュックナー流タイポロジー。

チェコの戦術は2、3回のタッチで素早くボールを動かしながらのサイド攻撃が基本――そう、どの雑誌記事・ネット記事を見ても書いてある。
だから、チーム内でいちばん鍵になるのは両サイドのMFとなるし、実際右・ポポルスキー&左・スミチェルという強力なサイドプレーヤーがいる。
(オランダ戦では最初、ネドベドを左サイドで使っているけど)
でも、彼ら2人が使えないとしたら――FW、DFで突破力がある選手をサイドMFに使うのが、ブリュックナーがいう〝タイポロジー〟に基づく選手起用なのだ。
そういう意味では、アレックスをサイドバックに使った某国代表監督もタイポロジーな発想だったのかは謎なワケだが…。

とはいえ、フォーメーションについては臨機応変に変わるものだと考えているようだ。次の発言からそれがわかる。

★「どうして4・1・4・1と拘るのかね。面白いね。誰が質問しても集中するのは試合開始の布陣なんだ(笑)。違うんだよ。時間的なフェイズ(局面)があるんだ。チームを評価する方法は20分、30分と時間の経過とともに起きる変化への対応だ。予選のベラルーシ戦で急遽見せたネドベドとロシツキーのダブルボランチを覚えているだろう? 我々にとって中央の一番いい選手はあの2人だが、状況によっては守備もさせる。最初だけを基準に判断するのはおかしい。もちろん、ベースは君(=インタビュアー)の言うとおりだが」

このことばは、オランダ戦の選手交代に振り返ればよくわかる。
試合開始時のチェコのフォーメーションは4・4・2。

         コラー   バロシュ
 ネドベド  ガラゼク  ロシツキー   ポポルスキー
 ヤンクロフスキー ウイファルシ イラネク グリゲラ
             チェフ

前半、オランダの左サイド・ロッベンを自由にしすぎていた右サイドバック・グリゲラを、左サイドMFのスミチェルと交代。彼と右サイドのポポルスキーとともにウイングバックに置いた3・5・2に移行した。

         コラー    バロシュ
 スミチェル  ネドベド  ロシツキー ポポルスキー
             ガラゼク
   ヤンクロフスキー ウイファルシ イラネク          
             チェフ

さらに後半、ボランチのガラセクに変えてフォワードのハインツェを投入して、3・4・3。

   ハインツェ    コラー    バロシュ
 スミチェル  ネドベド  ロシツキー  ポポルスキー
   ヤンクロフスキー ウイファルシ イラネク      
             チェフ

同点直後になってコラーを下げ、DFのロゼーナルを入れ開始当初の4・4・2に。

         ハインツェ  バロシュ
 スミチェル  ネドベド  ロシツキー  ポポルスキー
 ヤンクロフスキー ウイファルシ イラネク ロゼーナル          
             チェフ

最悪勝ち点1でもいいという姿勢を見せながら、実は中盤より前は攻撃的選手で占めるという布陣。
で、結局この日キレキレだったポポルスキーの突破からスミチェルが決めて逆転してしまった。

振り返ってみると、ブリュックナーの采配は、時間経過と相手の選手変更を見極めた巧みなもの。
確かに、ディフェンダーが薄くなった分、危険な時間帯もあったし、オランダの消極的な選手交代もあった。
(あのクライフもずっこけたと言うロッベンout ボスフェルトin)
なのに勝ち越せたといのは、「リスクを負わないと点数は取れないし勝てない」――イビチャ・オシムも言っているけど、そんなサッカーの定石に沿った結果なのかもしれない。
ま、ブリュックナーは以下のように〝法則〟と言ってますが。

★「基本的なオルタナティブの思考とやり方はうちの選手たちは皆、心得ている。アルキメデス、ニュートンからパスカルといろんな法則があるが、サッカーの試合にも法則がある。試合の前やトレーニング中、ロッカーとか、四六時中考えて、教えている。だから特別なミーティングなんてやらない。法則を理解させることこそが監督の仕事だ」

チェコの強さの秘密――それは、
 1)サッカーの基本的原則を理解したコーチ
 2)原則を頭に叩き込まれた選手たち

の存在ということだろうか。プレスと高いディフェンスラインという現代サッカーのベースとなる戦術では、もっと徹底しているチームもほかにある。
そうではない、もうひとつのチェコの強さをあげるとしたら、次の発言にもあるように
 3)攻撃的精神あるいは中盤の選手が守備・攻撃ととらわれず両方の役割をこなす
ということかな。

★チェコの守備は2列目が攻め続けることである意味完結している。なぜならブリュックナーは笑いながらこうも言うのだ。
「中盤の底に1枚しかないガラセクの守備の負担? おかしいな、彼は守備じゃなくて攻撃の起点なんだよ」

で、ラトビア、オランダを破ったチェコはユーロ2004の出場チームで唯一2連勝を達成。早々と決勝トーナメント進出を決めた。次の対戦相手はドイツ。ドイツについて、ブリュックナーはこう言っている。

★「創造性を持つのが中央のバラック(ドイツ)だが、私は相手チームについて選手でチェックしない。問題は選手ではなく、スペースを抑えることなのだ。大切なのはバラックを自由にさせるなという指示ではなく、逆にバラックを我々の選手の動きで止めさせる作業に仕向けるということだ」

あと、気になったことば2つ。

★対戦相手に敬意を払いながらも、すでに数十通りのタクティクスをシミュレートしたと言う。

★「知っているかね? こいつもいい監督だ。特に15番が大好きでよく聴く」
 モーツァルトだった。クラシック鑑賞が何よりも趣味だという男は、楽聖のピアノコンチェルトNo.15が、ことのほかお気に入りらしい。

Join the Conversation

3 Comments

  1. いや、いきなり風呂の水あかの話・・・笑いました。

    このチェコ・ブリュックナー監督の話は凄く面白いですね。
    ともあれ、サッカーをするのであればこう言った事は当たり前のような事でありそうなんですが、恐らくそれを出来る人って凄く少ないような気がします。
    基本的な変化への対応がどれほど難しいか・・・
    サッカーが多様であり、シンプルであるという矛盾するような事実がある以上、正解がない物ですから、余計にややこしい。
    サッカーの基本的原則を知る監督って、世界に何人もいなさそう。
    サッカープレイヤーとして急所を知る人は監督としてもやっていけそうなんですけど、本能のままにサッカーをしてきた選手(特に前の方の選手)なんかは厳しいんじゃないかな?と思う
    日本のジーコなんか、本能だけでサッカーをやってきたんじゃないかと・・・(そんなつもりはないんですが、ジーコ批判になってしまいました)
    こう言ったサッカーの原則を知るおじいちゃんタイプの監督に育ててもらえれば、強くなると私は思います(日本の代表もクラブでも両方)
    また、これからも遊びに来ますね
    失礼しました

  2. 初めまして。kiku と申します。
    誰のモーツアルトなんでしょうね。
    バレンボイムだったらいいなとか、気になります(笑)

Leave a comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.