ホーム > 書籍小説 > 中山可穂 「悲歌(エレジー)」(***)

中山可穂 「悲歌(エレジー)」(***)


悲歌 エレジー
悲歌  エレジー


中山可穂待望の新刊は、小説誌「野生時代」に掲載された短編2編「隅田川」「定家」と中編1編「蝉丸」を納めたもの。
以下、内容に軽く触れますので、未読の人はご注意を。

「隅田川」が死んだ娘への愛情。
「定家」が不倫の愛情。
「蝉丸」が(擬似的な)父子関係のある2人の男性の愛情。
…と、禁じられたラブがテーマになっているのが、この作者ならではッス。
タイトルからわかるように、「能」の題目がモチーフになっている。

すんげぇーおおざっぱにまとめてしまうと、中山作品に出てくる主人公は、
 ・「わたしのことをもっと愛してほしい」と願う人
 ・切実かつ激烈な”愛を乞う人”
である。
本作もまた、そういった人物がたくさん出てくるのだけれど、あまり「重くない」。
そうだなぁ、たとえば「マラケシュ心中」のヘヴィー度を100とするなら、20から30ぐらい。
だいぶ、気楽に読める。

で、いちばんおもしろいと思ったのが、中編の「蝉丸」である。
有名音楽家の血をひいた、「逆髪(さかがみ)」と「蝉丸(せみまる)」という姉弟。
そして、2人の育ての親であり、2人が組んだバンドのプロデューサーである男。
3人をめぐるストーリー。

★「何も心配しなくていいよ。
これからは、僕が守ってやるからな。
きみはただ、歌っていればいい。
いつも、どんなときでも、歌っていればいいんだよ」
蝉丸はまた、コクンと頷いて、歌を続けた。
神は小さな声で歌う。
神はもっとも弱き者に宿る。
神は地獄の血を光に変える。
博雅は隣でふるえている小さな手を握りしめた。
血でべとべとした小さな手は、遠慮がちに彼の手を握り替えしてきた。
空はゆっくりと明けはじめていた。
フロントガラスの上空に、暁の明星が輝いていた。
博雅と蝉丸はこうして出会った。
この最悪の夜明けが、それからの2人の長くて厳しい涯て(はて)のない白夜の始まりだった。132p


ちょっと一般的なことに敷衍していって申し訳ないのですが、「幼いころ親の愛情を受けられなかった子供」の話。
やがて、
 1)不良になっちゃうか、
 2)自己承認ができない子になっちゃうか。

わりと「エッジ」な方向に行くことが多いと思います。
ワタクシにも多少そういう「気(け)」はあるんですが、もっと深刻な人はもっといて。
リストカッター、摂食障害などは、上記の後者、自己承認度が低い人間におこる現象だと思います。

そういう、えてしてメンタル的に不安定な傾向にある人に、どう接していけばいいのか?
全面的な、100パーセントの承認、愛情が、その答えなんでしょうけど。
そうはいっても、なかなか、ね…。

「蝉丸」の主人公である、バンドプロデューサーの博雅も100%の愛情を求められて、それを受け止められず、後悔する結果になってしまう。
その一連のシーンが、胸に刺さってきました。

コメント:0

コメントフォーム
入力した情報を記憶する

トラックバック:0

この記事のトラックバック URL
http://www.kyotosanga.org/blog/2009/09/25/%e4%b8%ad%e5%b1%b1%e5%8f%af%e7%a9%82-%e3%80%8c%e6%82%b2%e6%ad%8c%ef%bc%88%e3%82%a8%e3%83%ac%e3%82%b8%e3%83%bc%ef%bc%89%e3%80%8d%ef%bc%88%ef%bc%89/trackback/
トラックバックの送信元リスト
中山可穂 「悲歌(エレジー)」(***) - Sex & Books & Football より

ホーム > 書籍小説 > 中山可穂 「悲歌(エレジー)」(***)

検索
フィード
メタ情報

ページの上部に戻る