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志水辰夫「うしろ姿」(*****)


うしろ姿
うしろ姿
◇出版社: 文藝春秋 ; ISBN: 4163245405 ; (2005/12)

熟年といわれる年齢になった人たちが、いままで自分が生きてきた道を振り返る。
そのとき、こころはどんな思いで占められるのだろうか?
たとえば、自分は何をやってきたのだろうという後悔の念。
あるいは、失なったものを思い返してのやるせなさ。
はたまた、まぁこんなもんだろうという開き直り。
この本には、はからずも人生を回顧することになった7人のこころのうちがつづられている。

個人的にもっとも感じ入ったのが「ひょーっ!」という一編だ。
主人公の男性は、危篤状態に陥った姉を目の前にしている。
2人は若いころ、人いえぬつらい状況にあった。
そのディテールがゆっくりと積み重ねられるように記されていく。
そして、明かされる衝撃の過去。
けっして「泣かせ」に入った文章ではない。
淡々としたトーンなのだが、でも「ジーン」ときた。

「いまひとたびの」からつづく、志水辰夫らしい短編の数々だった。
だが、残念ながら作者はあとがきで
「もうこの手の作品を書くことはない」
と宣言している。
“希代のへそ曲がり作家” はどこに行こうとしてるのだろう。
見守っていきたい。

さて。
わたくしのばあい、いままでの人生を回顧したとしても「まだ終わってない」という感がある。
だが、何年も何十年もたったとき。
自分の時代が終わりつつあるという思いにとらわれるのだろうか?
いまは、まだ、その気持ちがわからない。

★……毎日を、きのうのつづきとして繰り返している。そのもととなっている自分の肉体に、限りがあることを意識するだけである。たぶんあと数年は生きなければならないだろう。いままでの時間と比べれば取るに足らない短さであることに唯一の希望を見いだしていた。(213p)

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